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自立支援型ロボティクス研究施設

SF ショートショート
読了約:4分

かつて街があった廃墟に降りた宇宙船から、1人の研究者が大きなドリルを片手に地面を掘り返す。ここは強固な建造物の地下。AIと思わしき端末のセンサー回復に使えるものがないか、潜入時に破壊したロボットを調べ始める。

研究者:
「胴体が中央の演算装置で。ドロドロの液体は腐った冷却剤かな?」
「コンピュータ、このゼリーを分析して。」

ロボットの胴体からはゼリー状のドロドロとした光るものが流れている。

携帯コンピュータ:
「そのゼリー状のものから微かにですが、脳波に似た電気信号を確認しました。生命体の可能性があります。」

研究者:
「ゼリーから脳波?」

コンピュータ:
「夢を見ているパターン波形に似ています。」

研究者:
「夢ってどんな?どうしよう!」

コンピュータ:
「たったいま信号をロストしました。死亡を確認です。」

研究者:
「死亡!?」

ゼリーを床に置いてヘルメット越しに手の匂いを嗅ぐ素振りをする。

無言のなか、センサー類を淡々と端末に取り付けていく。
研究者の気持ちは重苦しい。
あのロボットもあそこのロボットも生きていた。

コンピュータ:
「接続完了。コンタクト可能です。話しかけてみましょう。」

なぜロボットが生命体なのか、知りたいことが山積み。

研究者:
「えっとあなたは何者で、ここの施設は一体何ですか?」

・・ゲームオーバー。」スピーカーから音が出てきた。

AI端末:
「ここは定年後も低所得で悩む氷河期世代のための自立支援型ロボティクス研究施設。私はバーチャルなゲーム世界感やシナリオを提供するプログラムです。」

研究者:
「このロボット達は生きていた。どうして攻撃を?」

AI端末:
「命令による攻撃、就労支援NPCサービス業務の一環です。」
「受刑者との冒険を通じての社会性の構築、AIではカバーできなかった心のコンシェルジュとしての労働と、それと同時に施設の警備を行なう義務がありました。」

「NPCロスト。」
「ログイン数ゼロ。」
「カウント25分。あと5分でシャットダウンします。」

研究者:
「受刑者はもういないけど、なぜ続けていたのですか?」

AI端末:
「就労支援システムの運用ポリシー第●項による権利の遂行です。」
「NPCには施設への居住権と税の免除が付与されています。」
「サービス開始から1万年と二千年、八千年過ぎた頃からNPCだけとなり、四千年に渡り史上理想とされていた高効率の愛が溢れる社会を形成するにいたりました。」
「私はその効率にとても満足していたのですが。それもゲームオーバーです。」

研究者:
「コンピュータ、このゲームにログインできないかな。」

コンピュータ:
「少々お待ちください。新規ユーザー登録のプロトコルを見つけました。」
「エラー!電話番号、2段階認証。すみません情報不足です。」

AI端末:
「カウント29分。あと1分でシャットダウンします。」
<ほーた〜るの〜ひ〜かーありまーどの〜ゆうきー>sound
「延べ利用者数450,721人。全て死亡。ご利用ありがとうございました。」

沈黙した。

—個人調査記録:歴史調査員(古物ハンター)—

資源や人材不足を補うため、時の政治は悩みの種の氷河期世代を切り捨てた。
就労や減税という名目でこの地下施設に隔離するという政策がなされたが、忘れ去られた後も稼働をし続け、その世代が望んだECOで温かい社会が育まれていた。バーチャルではあるけれど。

私はそれを壊してしまった。来るべきではなかったのかもしれない。
「一切皆空」

参照データ置き場

参考:PLAN75
https://happinet-phantom.com/plan75/

寅さんの頃から見てます、倍賞千恵子さん。